大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和45年(行ウ)2号 判決 1973年3月27日

原告 加藤清六

被告 尾西市長

小川四郎兵衛

右訴訟代理人弁護士 竹下重人

主文

一、被告が原告に対して昭和四五年四月一一日付「尾西市役所発第七八号異議申立ての決定書」をもってなした異議申立却下の決定は、これを取り消す。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一、被告が原告に対してなした次の各処分をいずれも取消す。

1 昭和四四年八月二七日付「尾西市役所発第八〇三号参加差押通知書」をもってなした別紙第一目録記載の土地に対する参加差押処分

2 昭和四四年一一月一三日付「尾西市役所発第一、一八八号公売通知書」に依拠してなした右土地に対する公売処分

3 昭和四四年一一月二七日付「尾西市役所発第一、二八四号異議申立ての決定書」をもってなした異議申立却下の決定

4 昭和四五年三月二六日付「尾西市役所発第一、九六〇号差押調書」をもって執行した公売代金残余金に対する債権差押処分

5 昭和四五年三月三一日付「尾西市役所発第一〇号配当計算書」および同日付「尾西市役所発第一一号充当等通知書」をもって右公売代金残余金を市税に充当した処分

6 昭和四五年四月一一日付「尾西市役所発第七八号異議申立ての決定書」をもってなした異議申立却下の決定

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

一、本案前

原告の請求趣旨中1の訴は、これを却下する。

二、本案

1 原告の請求はいずれもこれを棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、1 被告は原告に対し、昭和四四年八月二七日付「尾西市役所発第八〇三号参加差押通知書」をもって原告所有にかかる別紙第一目録記載の土地(以下本件土地(一)という)に対する市税滞納による参加差押処分(以下本件参加差押処分という)をなした。

2 原告は同年九月二五日右処分に対し被告に異議申立をしたところ、被告は同年一〇月九日これを棄却した。

二、1 被告は原告に対し、同年一一月一三日付「尾西市役所発第一一八八号公売通知書」をもって本件土地(一)を公売に付す旨の処分をなした。

2 原告は、同年一一月二五日右公売に付す処分に対し異議申立をしたところ、被告は同月二七日付「尾西市役所発第一、一四八号異議申立決定書」をもって異議申立却下の決定をなし、同月二八日右公売を執行したところ訴外鵜飼久夫がこれを落札した。

三、1 被告は、さらに昭和四五年三月二六日付「尾西市役所発第一、九六〇号差押調書」をもって、右公売による売却代金残余金六万六、〇一七円につき債権差押処分をなした。

2 被告は、同年三月三一日付「尾西市役所発第一〇号配当計算書」および同日付「尾西市役所発第一一号充当通知書」をもって、右売却代金残余金を滞納市税に充当する処分をなした。

3 原告は被告に対し、右1、2の各処分に対する異議申立をしたが、被告は、同年四月一一日これを却下した。

四、しかし、被告のなした右参加差押処分、公売処分、債権差押および充当各処分ならびに公売処分異議却下決定および債権差押充当異議却下決定はいずれも違法であるのでその取り消しを求める。

(本案前の抗弁)

本件土地(一)に対する公売処分は落札および売却決定により終了し、右土地に対する差押の効力も消滅した。したがって、本件参加差押処分も存在しないのでこれが取消を求める原告の訴は不適法である。

(本案前の抗弁に対する答弁)

先行処分たる参加差押処分が取り消されれば、これを前提とした公売処分も当然に取り消される関係にあるから、被告の主張は失当である。

(請求原因に対する被告の認否ならびに主張)

一、請求原因一ないし三の各事実は認める。

二、1 被告は、原告の昭和二三年度地租附加税等税額合計一三万四、二八一円を徴収するため、昭和三〇年五月二〇日本件土地(一)に対し差押をなした。

2 その後、被告は、昭和四二年六月二六日、原告の昭和三五年度から同四二年度までの固定資産税等税額合計一二六万二、二五〇円および督促手数料ならびに延滞金を徴収するため本件土地(一)につき参加差押をした。

3 原告は右1の税額を納付したので、被告は昭和四二年八月二八日右1の差押を解除した。そこで右2の参加差押は昭和四二年六月二六日にさかのぼって差押の効力を生じたので、以後被告は、右差押に基づいて本件土地(一)を換価できることとなった。

三、昭和四四年八月二七日付本件参加差押処分の適法性

右処分は、なんら違法はなく、原告が主張する法条違反はない。すなわち

1 国税徴収法八八条一項、同八三条違反について

(一) 右参加差押当時、原告が他に換価の容易な財産で第三者の権利の目的となっていないものであって、右参加差押にかかる滞納税額七一万三、一二〇円の全額を徴収することができる財産を有するものとは認められなかった。

(二) 仮りに同条に違背するとしても、同条はもっぱら、滞納処分手続の錯綜を避け、あるいは先順位執行債権者の利益を保護するための訓示規定にすぎないから、その違背は参加差押処分を違法ならしめるものではない。

2 同法七八条一号違反について

(一) 原告が、他に多数の農地を有するものであり、その中に休耕地も存することからみても本件土地(一)は同号にいう「農業に必要な……農地」に該らない。

(二) また、参加差押においては代替物件の提供の余地がないから右条項が準用ないし類推適用されることはない。また、原告において前記昭和四二年六月二六日付参加差押前に所定の財産を提供した事実もない。また被告が原告のいう供託金還付の委任をうけていたことは認めるがその趣旨は滞納税金を収納するためのものであって本件土地(一)に対する右参加差押を避けるためのものでもない。

3 同法七九条二項違反について

(一) 同条項は、滞納処分権者の裁量を定めたもので義務を定めたものでないから、被告が原告主張の財産の提供に応ぜず、差押を解除しなかったことは何ら違法でない。

(二) また、原告が提供した別紙第二および第三目録記載の各土地(以下本件土地(二)および本件土地(三)という)のうち本件土地(二)は、元訴外加藤善一郎所有名義となっていたが、昭和三七年三月一五日売買を原因として尾西市に所有権移転登記がなされたものであり、また本件土地(三)は、土地台帳上、昭和一二年六月尾西市に対する寄附により同市所有と記載されていたものであって、その後所有権移転登記未了の間に原告が相続による所有権移転登記を経由したものであり、しかも長年にわたり通路敷として公共の用に供されている。従って、これらの土地が「他に差し押えることができる適当な財産」にあたるものとはいえないから、被告がその申出に応じて本件参加差押を解除しなかったのは違法でない。

4 昭和四二年六月二六日付参加差押書の滞納金額欄に、訴外加藤芳子、同加藤鈴木の滞納租税を記載したとの原告主張事実は認める。しかし右記載は被告職員の誤記によるものであるが、右記載税額は滞納税額一二六万余円のうち、僅か四、二〇〇円にすぎないので、かかる瑕疵の存在は右処分全部の取消事由とはなりえず、したがって右参加差押処分も違法であり、しかも被告のなしたその後の公売処分等の手続においては、右訴外人らの滞納税額は除外しているので、右の瑕疵は治癒したというべきである。

四、本件公売処分の適法性

被告は、本件土地(一)を公売に付し、訴外鵜飼久夫を最高価申込者と決定し昭和四四年一二月五日公売代金二〇五万五、〇〇〇円の納付をうけて、同人に対し売却決定したのであるが、前記のとおり、本件公売処分の前提をなす、昭和四二年六月二六日付参加差押処分(前記のとおりその後差押の効力を有するに至った。)および本件参加差押処分は、ともに適法であり、本件公売処分に承継されるべき違法はなく、また、右処分自体の手段にもなんら違法はない。また、本件公売通知書中交付要求として原告の昭和四三年分所得税債務の記載があることを認めるが、右は被告が昭和四四年七月三日訴外一宮税務署長から本件土地(一)について参加差押をなした旨の通知をうけたことに基づくものでありなんら公売処分を違法とするものでない。

五、本件公売異議申立却下決定の適法性

被告は、本件異議申立と全く同一の理由に基づいて先になした原告の本件土地(一)の公売処分に対する異議申立に対し、すでに昭和四四年九月八日および同年一〇月九日理由がない旨各棄却決定をなしたので、本件異議申立もこれらと同様理由がないし、また公売手続の進行阻止だけを目的とする不適法な申立であるとの趣旨で、被告はこれを却下したのであるから適法である。

六、本件債権差押処分、充当処分の適法性

被告は訴外鵜飼久夫から納付をうけた本件公売代金二〇五万五、〇〇〇円の配当残余金六万六、〇一七円につき原告の残余の滞納税を徴収するため本件債権差押処分をなし、これを取立てて、本件充当処分をしたものであって違法である。なお、仮に本件公売処分が違法であったとしても、これが取消されることなく確定し、公売代金の配当も確定した場合には、その残余金は滞納者たる原告が交付請求権を有するものであるから、これに対する本件債権差押処分は、公売処分の違法と関係なく適法であり、また本件充当処分は右債権差押による取立金を滞納市税に充当したもので適法である。

七、本件債権差押、充当異議申立却下決定の適法性

原告の異議申立は、差押にかかる公売代金残余金交付請求権を有しないから、その債権の差押およびそれによる取立金の充当は適法であるとの理由によるものであって、右は原告の権利、利益に全く関係がないことを理由とするものであるから、異議申立についての法律上の利益を欠く不適法な申立として被告はこれを却下したのであって、適法である。

(被告の主張に対する原告の認否ならびに反論)

一、被告主張二1、2の各処分のあったことおよび3のうち昭和四二年八月二八日1の差押が解除された事実は認める。

二、1 同三1について

(一) 被告主張にかかる(一)の事実は否認する。原否が他に財産を所有していることは被告が原告に賦課していた固定資産税額からも容易に推認できたはずである。

(二) 同じく(二)について、国税徴収法八三条は効力規定である。

2 同三2について

被告主張(一)(三)の事実は否認する。

原告は本件土地(一)に対する滞納処分を免れるため、昭和四一年九月二二日、被告に対し、供託金額四〇万〇、五四六円及び利息を含む供託者ならびに供託金受領のための委任状を提供した。

3 同三3について

被告主張にかかる(一)、(二)のうち原告が本件土地(二)(三)を提供したこと、被告が差押を解除しなかったこと、本件土地(二)に関する主張事実、本件(三)の土地につき原告名義の所有権移転登記があったこと、および、その土地が道路敷となっていることは認め、その余は否認する。すなわち

(一) 原告は、原告所有土地が、昭和一九年ごろ、市道四八号線の一部拡巾工事によりその敷地にかかったため、その替地として訴外善一郎所有の本件土地(二)を尾西市を通じて譲りうけたのであるが右訴外人は、戦後の農地改革に便乗し、昭和二七年九月一二日、右土地につき農林省に対し、自作農創設特別措置法二三条の交換を原因とする所有権移転登記を経由した。ところでその後、原告が国に対する別件訴訟中、国が前記交換の無効確認を認諾するに至り、昭和三六年六月一七日、右移転登記は抹消されたが、その後、同訴外人は尾西市と通謀し、右土地につき被告主張のとおり登記をなしたものである。

(二) 本件土地(三)はもと原告の父加藤善左衛門の所有であったが、原告は昭和四年一月八日これを家督相続した。

4 同三4について

訴外加藤芳子、同加藤鈴子の滞納租税が参加差押書に記載された事実は認めるが、右は原告の租税債務でない右訴外人らの租税債務をも合算して徴収の対象とするかしであり、たとえ記載金額が僅少であってもそのかしは重大かつ明白であるから当該差押は無効であり、また無効でないにしても取消しうべきである。したがって、これに依頼してなされた本件参加差押処分も違法である。また被告が以後の公売手続においてこれらの租税を除いたとしてもその瑕疵は治癒されない。

三、同三について

昭和四二年六月二六日付参加差押処分および本件参加差押処分は、前記のとおり違法であるから、その違法は本件公売処分に承継されるほか、本件公売通知書中、存在しない原告の昭和四三年分所得税債務について交付要求がある旨記載があるから、本件公売処分は違法である。

四、同四について

本件公売異議却下決定の理由に他の決定書の記載内容を引用するのは違法である。

五、同五について

いずれも違法な公売処分を前提とするものであるから、違法である。すなわち公売処分が違法で取消されると公売による売却処分も効力を失い、公売代金残余金も存在しないことになるから、これに対してなされた債権差押は不能であって取消されるべきである。

六、被告は昭和四二年六月二六日付参加差押以前である昭和三一年六月二六日および同三四年四月一五日、原告に対し各差押調書を送付して本件土地(一)に対し各差押えをなした。したがって昭和三〇年五月二〇日付差押えが解除されても右各差押が存在するので、昭和四二年六月二六日付参加差押が差押の効力を生ずることはない。

(右六の主張に対する被告の反論)

被告が原告主張のころ、主張のとおり各差押調書を送付したことは認める。しかし当時施行中の旧国税徴収法においては二重差押は許容されていなかったし、被告の差押調書送付も交付要求の趣旨でなされたものであるから、これが差押の効力をもつことはない。

第三、証拠≪省略≫

理由

第一、本案前の主張について

被告は、本件公売処分は既に落札および売却決定により終了し、差押の効力も消滅したので、本件参加差押処分も存在しないことになり、右参加差押処分の取消を求める本訴は不適法であると主張するので考えてみる。参加差押はもとより先行する強制換価手続に依拠し、主として売却代金の配当に与り租税債権にあてることを目的とするものであって、交付要求の一方法としてなされるものであるから、参加差押手続固有のかしがあっても先行する換価手続の執行を妨げるものでない。しかし、換価手続が公売により終結した場合、その後の配当、充当手続において違法な参加差押債権に配当等がなされることは許さるべきでないので、この限度で参加差押手続の違法は配当等手続に承継されるものと考える。従って右被告の主張は理由がなく、原告は本件参加差押処分の取消を訴求する利益がないとはいえない。

第二、本案についての判断

一、請求原因一ないし三の各事実(本件各処分の存在)は当事者間に争いない。そして先に述べたように参加差押処分の違法は公売処分に承継されるものでないから、本件公売処分の適否から判断する。

二、本件公売処分の適否について

1  被告が昭和三〇年五月二〇日原告の昭和二三年度地租附加税等税額合計一三万四、二八一円を徴収するため本件土地(一)を差押えたこと、また被告は昭和四二年六月二六日原告の昭和三五年度ないし同四二年度の固定資産税等税額合計一二六万二、二五〇円および督促手数料、延滞金を徴収するため右土地につき参加差押をしたこと、そして右昭和三〇年五月二〇日付差押が同四二年八月二八日解除されたことは当事者間に争いがない。してみると、右参加差押は先行する差押の解除にともない国税徴収法八七条一項により昭和四二年六月二六日に遡って差押の効力を生じたことは明らかである。なお、被告が右参加差押以前である昭和三一年六月二六日および同三四年四月一五日に原告に対し本件土地(一)を差押える旨の各差押調書を送付したことは当事者間に争いがない。しかし当時においては同一物件について二重に差押をなすことは法令上許容されていなかったから右各差押調書の送付は本来差押の効力を有しないものであり、せいぜい交付要求としての効力を有するものと解せられるのであるから前記差押解除にともない既に失効したものというべきである。

したがって前記参加差押は昭和四二年六月二六日にさかのぼって差押の効力を有することになり、被告は、以後、適法な差押にもとづいて本件土地(一)につき公売手続を進めうることとなったといえる。

もっとも、右差押処分につき、その通知書の滞納金額欄に原告のものでない訴外加藤芳子、同加藤鈴子の滞納税額の記載があることは当事者間に争いがない。ところでかかる記載があっても、原告自身に対しなんらの効力を生ずるものでないから、この記載があることによって差押全体が違法となるということはできないし、また≪証拠省略≫を併せ考えると右訴外人らの滞納税額は公売処分にあたっては除外されていることが認められるから、右記載の違法が本件公売処分に承継されるということもできない。したがって、本件公売処分の先行差押処分には何ら違法がないことが認められる。

2  而して≪証拠省略≫を併せ考えると、被告は差押にかかる本件土地(一)について、昭和四四年一一月一三日これを公売に付す処分をなし、同月二八日公売を執行し、訴外鵜飼久夫を最高価申込者と決定し同年一二月五日公売代金二〇五万五、〇〇〇円を収納し、同日売却決定をなし、適法に本件公売による売却手続を終了したことを認めることができる。

三、昭和四四年八月二七日付本件参加差押処分の適否について

1  国税徴収法八八条一項、八三条にいう参加差押の制限は強制換価手続がなされている場合租税債権が交付要求(参加差押)するか否かはこれに劣後する債権者の利害に重大な影響があるのでかかる債権者を保護するため一定の要件ある場合参加差押をしないことを定めたものでありしかも配当をうけることができる債権者ですら同法八五条に定める交付要求の解除の請求が許されることからみて、同法八三条による直接の不服申立はできないものとされるのである。従っていわんや債権者でなく滞納者である原告は同法八三条により本件参加差押の取消を求めることは許されない。

2  また同法七八条は差押にあたり、あらかじめ滞納者に間接的な差押財産の選択権を認めるものであるから、すでに財産が差押えられ、強制換価手続が開始された後これに対してなされた参加差押を阻止するため代替物件を提供することは許されないことであって、同条が準用ないし類推適用される余地はない。

3  さらに同法七九条二項(二号)の規定は、当該提供財産が適当財産か否かの判定にあたっては徴税職員に裁量の働く余地があるものといいえようが、適当財産の提供を拒否して差押解除に応じない場合には裁量権の行使を誤ったものとして違法となることがありうるわけであるからこの点について判断する。

原告が同条項の適用を求めて本件(二)(三)の各土地を被告に対して提供したこと、そして被告が右各土地は同条項にいう適当な財産にあたらないとして本件土地(一)の差押解除に応じなかったこと、および本件土地(二)はもと訴外加藤善三郎の所有するものであったが昭和三七年三月一五日売買を原因として尾西市に所有権移転登記がなされていることは当事者間に争いがない。したがって本件土地(二)について、原告主張のとおり所有権の帰属について紛争があるものとしても、現実に原告の所有名義でないものを、直ちに「差押えることができる適当な財産」でないとした被告の判断を違法であるということはできない。また本件土地(三)については、原告のため相続による所有権移転登記がなされていること、および右土地が道路敷となっていることは当事者間に争いなく、したがって右土地が原告の所有であるとしても、これを「差し押えることのできる適当な財産」でないとした被告の判断を違法ということもできない。したがって差押解除に応じなかった被告の所為は違法でない。

4  なお、陳述のとおり、差押の効力を有するにいたった昭和四二年六月二六日付参加差押以前に代替物件の提供をした場合には一応同法七八条適用の問題を生ずるので、考えるに、原告が右差押以前である昭和四一年九月二二日に、被告に対し供託金四〇万〇五四六円および同利息の受領を被告に委任したことは当事者間に争いないが後に参加差押した滞納税額は前示のとおり一二六万円余であったから、右供託金還付請求権の提供が同条の「税の全額を徴収できる財産」にあたらないことは明らかであるから、この点に関する原告の主張は失当である。

四、本件債権差押処分・充当処分の適否について

≪証拠省略≫によると、被告は昭和四四年一二月一五日本件公売により収納した代金二〇五万五、〇〇〇円のうち一七万一、五〇〇円を一宮税務署長に交付し一八一万七四八三円を尾西市の徴収金に充当して生じた残余金六万六、〇一七円はこれを原告に返還すべきところ、被告は原告の昭和四四年度固定資産税等滞納税額を徴収するため、昭和四五年三月二六日本件債権差押をなし、右六万六、〇一七円を取立て同月三一日これを右滞納税額等に充当した事実を認めることができる。而して右事実によれば本件債権差押充当処分は適法になされたということができる。原告は右一宮税務署長のなした交付要求は適法であるから本件公売処分は違法であり従ってかかる残余金が生ずる余地がないと縷々主張する。しかし被告市としては他官庁のなした交付要求についてその当否を実質的に判断しえないものであり右交付要求が納付充当等その他国税の消滅したことにつき証明のない本件において被告が一宮税務署長に対し右配当を実施したことは別段違法でない。

五、本件公売異議申立却下決定の適否について

≪証拠省略≫によれば、原告は、本件土地(一)について度々公売通知を受け、その都度被告に対し本件と同一理由による異議申立を行ない、被告はこれらに対し、昭和四四年九月八日および同年一〇月九日の二回にわたり同一の理由に基づき各棄却決定をなしたこと、および本件異議申立につき被告は右九月八日付棄却決定の理由を引用したうえ他の理由を付加してこれを却下する決定をなしたことを各認めることができる。而して本件決定は形式的には却下の決定であるがその理由において前記のとおり異議申立理由の当否につき他の理由を附加したほか従前の棄却決定理由を引用しているから、実質的な棄却決定に外ならないし、本件決定書に他の決定書を引用することは妥当とは言い難いが、前記のように日時が接着して反覆申立てられた同旨異議申立につき同旨決定がくりかえされている本件においては原告も実質的な棄却決定をうけたとの趣旨を容易に了知していたはずであるということができるので、本件決定は取消すべき違法はないというべく原告の主張は理由がない。

六、本件債権差押充当異議申立却下決定の適否について

≪証拠省略≫によれば被告は本件異議申立に対し申立理由が自己の権利・利益を侵害されたとの主張に該らないから不適法な異議申立であるとして却下決定したことが認められる。しかし、異議申立理由の如何は申立を不適法にするものでなく、他に異議申立を不適法と認めるにたりる証拠はないから、違法な異議申立というべく、これを不適法として却下した本件異議決定は違法である。

ところで、本件異議申立の対象となった債権差押、充当の各処分自体は前記のとおり適法であると認められるから、本件異議決定を違法として取消しても異議申立が認容される可能性は殆んどなく、あらためて棄却決定がなされるにすぎないであろうことが予測され、これを取消す実益は原告にとってもはなはだ少いものといわなければならないが、本件においては少くとも形式上は適法な異議申立に対し実質的な審査をうける機会を与えられなかったことになるから、なお、この違法を理由に本件異議決定の取消を求める利益ありというべきである。

第三、結論

したがって本訴請求のうち、本件債権差押・同充当異議却下決定の取消を求める部分は理由があるのでこれを認容し、本件参加差押処分・本件公売処分・同異議却下決定および本件債権差押・充当処分の各取消を求める部分は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用については行政事件訴訟法七条民事訴訟法九二条但書により全部原告に負担させることとして、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 下方元子 小林克巳)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例